LRTと自転車の街 フライブルグ
ドイツ南部、フランス、スイスとの国境近くの街、フライブルグへ佐世保卸団地雑貨部会8社10名で研修に行きました。目的は、環境保全と中心市街地活性化のための「都市の装置」として近年注目されているLRT(ライト・レール・トランジット)視察です。LRTは次世代路面電車とも呼ばれ、福岡市天神地区に導入する民間構想が先日新聞で報道されるなど各地で注目の公共交通機関です。
広大な土地に必然とも言えるクルマ社会のアメリカの流通、過熱にも見える新興の勢いたくましい世界の工場中国、いずれも視察先として魅力がありますが、少子高齢化、需要減、狭い国土といった日本の条件を考えると、成熟したヨーロッパが活性化のために行っている施策を見聞することも研修になるのではないかと考えました。
フライブルグはドイツでは温暖な国土の南端地域に位置し人口25万人程、特に大きな産業基盤はありません。佐世保と条件は似ているように思います。ドイツの環境首都に選ばれたこともあるなど行政の先進的な取り組みで名高く、日本の自治体関係者の視察も多いと聞いています。確かに私達以外にも日本の視察団が同じホテルに宿泊しておられましたし、交通局のパンフレットには立派な日本語版がある等、視察団の多さがうかがえました。 フライブルグはドイツの人々が住みたい街ナンバー1だそうです。ドイツ全体では出生率の低下で人口が減少しているというのに、ここは人口が増え続けています。大きな街のベッドタウンというわけでもありません。この理由を交通局広報担当の方に尋ねてみたら、「美しい街だから」と一言で答えられました。私も要するにその通りなのだろうと思いました。温暖な気候に加え、自転車と歩行者を重視し環境問題に配慮した美しい中心市街地、便利で安価な公共交通機関LRTという施策の成果がここにはあります。
公共交通機関の充実は環境保全と中心市街地の活性化につながります。環境負荷が大きく輸送効率が低いクルマのために道路や駐車場等の社会資本を整備するよりも、排ガスを出さない公共交通機関を公金で整備して安い料金と便利なダイヤで利用を促進するほうが理にかなっています。各世帯に複数台の、あるいは一人に一台のクルマが、渋滞もなく駐車場探しにも苦労せず、快適に利用できる都市生活などというのは現実的ではありません。もし実現できたとしても、資源の無駄遣い、環境の破壊です。 次世代路面電車と訳されるLRTですが、3〜5台連結による大きな輸送力、専用軌道で高速高密度な運行ダイヤ、都市間鉄道との相互乗り入れ、低床車両によるバリアフリー対応、いずれをとっても日本の路面電車とは大きな違いがあります。単に低床車両というだけではなく運営システムそのものが違います。LRTはヨーロッパ各都市で導入が進んでおり、フランスのストラスブールとドイツのカールスルーエが特に有名です。私達もカールスルーエに一泊し、実際にドイツ鉄道と相互に乗り入れしている路線に乗車してみました。 さらにフライブルグでは地域環境定期券(レギオカルテ)と呼ばれる独自の定期券が発行されています。地域環境定期券は月に約5000円でLRTのみならず近郊の交通機関も利用でき、休日には本人だけでなく家族6名まで同伴できます。さらに使わないときには他人に貸しての使い回しも可能と大盤振る舞いの定期券です。この定期券を核に、郊外無料駐車場によるパーク&ライド、終電終バス以降は1ユーロでタクシー利用可、市営団地へのLRT積極導入、クルマの中心市街地乗り入れ制限、自転車利用の促進策等の施策で、都市全体の環境を守り、ひいては中世以来の伝統ある中心市街地の活性化に成果を上げています。 さて研修旅行はカールスルーエ、シュトゥットガルト、バーデンバーデン、フライブルグのドイツ南部地方都市を中心にフランスのコルマール、スイスのシュタインアムラインにも足を伸ばしました。観光ルート沿いではないためかあまり日本人も見かけず、強制的に土産物店に連れて行かれることもなく、楽しく各地の地ビールを味わいながら美しい市街地を見ることができました。お天気にはあまり恵まれず雨や肌寒い日も多かったのですが、参加者全員元気で帰国することができました。
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